目次
自尊心とは?
自尊心とは、ひと口にいうと、自己を受け入れ尊重する態度のことをいいます。
英語ではセルフ・エスティーム(self-esteem)やセルフ・リスペクト(self-respect)などと呼ばれるように、自己に対する尊敬や敬意、尊厳という意味合いを持っています。
自尊心は自己肯定感と言い換えられる場合もありますが、自己肯定感が自分自身の考え方や行動・言動など、「自己表出されるもの」に対しての肯定的な態度だとすると、自尊心はこの世に存在すること自体を認める態度といえるでしょう。
自己肯定感が自分の「あり方」に関わっているとすると、自尊心は自分の「生命(いのち)」そのものに関わっている、と捉えられるのです。
「自尊心がある」とは、自分に対し「私は大切な存在だ」「私は尊重されてよい」と感じていることになります。
自己に対する信頼や安心感を持っていること、と言い換えられるでしょう。
この自尊心が欠如していると、「私は誰にも大切にされない存在だ」「私など取るに足りない人間」という否定的な思い込みを抱えてしまいます。
これは、この世に存在すること自体を否定することになり、自分という存在の意義が大きく揺らいでしまいます。
このように、自尊心とは私たちの無意識に刷り込まれた態度であり、思わぬところで顔を出すものでもあります。
自尊心が高いと、他人からの賞賛を素直に受け入れ、何か失敗をしても謙虚に学び、物事をプラスに受け止めて落ち着いた態度でいられるでしょう。
それにひきかえ、自尊心が低いと、他人から向けられたちょっとした言葉や態度に敏感に反応し、何か失敗をすると落ち込んだり、他人のせいにしたり自己卑下をしたりするなど、マイナス面が表れやすくなってしまいます。
また、このようなマイナスの態度が重なると、やがて心身症やうつなどの症状に発展することもあります。
このように、自尊心は私たちが健康で幸福な人生を送るための基本になる感情であり、自己という存在の柱となり、自己を支えるセルフイメージであることがわかります。
自尊心の起源とは?
自尊心は、私たちが生まれてから成長する過程で、両親や周囲の人々から受け取った言葉や態度、愛情やケアにより育まれていくものです。
親や周囲から愛情豊かで細やかな世話を受け、大切に育てられた子どもは、大人になっても「自分は大切な存在だ」「私は価値がある」と無意識に認めることができます。
参考:自尊心を傷つける言葉・自尊心を高める言葉とは?/親子の場合
一方、周囲からの愛情やケアを十分に受けられずに育った子どもや、また適切ではない養育を受けてきた子どもは、自分の価値を認めることができずに、大人になっても生きづらさや問題を抱えやすくなってしまいます。
さらに、親が健全な自尊心を持っていない場合は、子どもを適切に養育し、自尊心を育むことがむずかしくなります。
またその親自身も、自尊心を十分に育むことができない環境で育てられた可能性もあるでしょう。
自尊心は生育環境や時代背景により、大きな影響を受けるものです。
歴史的に見ても、私たちの先祖が皆健全な自尊心を育んでこられる訳でなかったことは想像できるでしょう。
そして、かつてないほど文明が進化した現代においても、私たちの心の問題が解決することはありません。
むしろ、情報化社会や競争社会の中で人間関係が複雑化し、自尊心を保ちにくい状況になっていることも事実です。
このように考えると、私たちが健全な自尊心を持つことの困難さが浮かび上がってくるのではないでしょうか。
自尊心は比較からは生まれない
私たちの社会は、文明を発達させ、進歩するために競争を必要としてきました。
自分と他人とを比べ、優劣や順位をつけて能力を評価し、社会的地位や経済力を持つことをよしとしてきました。
ただ、他人よりも優れ、学歴や職業、地位や財産を得たからといって、自尊心の獲得に直接つながる訳ではありません。
そのような物質偏向の価値観がかえって自尊心や自尊感情を損ない、劣等感を植え付ける要因にもなっているでしょう。
自尊心は「ありのままの自分」を認めることで得られる感情であり、自己を尊重する態度です。
それは他人よりいかに優れているか、またどれだけ他人より多くの物を所有しているかによって左右されることはないのです。
もし、他人より優れた能力や物質的豊かさに頼って自尊心を得たとすれば、それらを失うと同時に自尊心も失うことになります。
しかし、「ありのままの自分」を無条件に認めることで得られた自尊心は、条件によらず、また他人によって評価されることもないのです。
自尊心が欠如する or 過剰になると?
自尊心が欠如すると、人は生きづらさを抱えるようになります。
自尊心は人格形成の土台になりますので、これが欠如してしまうと、自分らしいとはどのようなことか、自分はどう生きていきたいのか、という自己の感覚が曖昧になり、否定的な思考や態度が身についてしまいます。
周囲と比較し、「自分はダメな人間だ」「自分には価値がない」と自己否定することにより、何事にも消極的になり、心身の活力(エネルギー)が低下していくでしょう。
心身のエネルギーが低下すると、ちょっとしたことに過剰反応しやすくなり、ますます否定的な思い込みを抱えることから自信喪失をしてしまい、落ち込みやすくなります。
そして、慢性的な不安や恐怖、緊張、イライラや焦燥感、憂鬱な気分などに支配されるようになるのです。
これは、「気」が病んでしまう状態になり、心身の免疫力をいちじるしく低下させてしまいます。
逆に、自尊心の低下が自信過剰な態度、尊大さとして表れる場合もあります。
自信過剰になる場合は、普段から自慢話や他者への批判をすることが多く、またちょっとしたことでプライドを傷つけられたと感じやすいため、激昂して暴言や暴力に発展することもあります。
その人の性格により表れ方はさまざまですが、その根底には自尊心の欠如があることに変わりはありません。
自尊心が低い状態で、ストレスに晒されていると、私たちはやがてセルフ・コントロールを失い、身体面にも異変が表れてきます。
これが心身症と呼ばれる症状です。
これは、アルコール、薬物、買い物、恋愛などへの依存症や摂食障害(拒食症や過食症)、睡眠障害など、重大な疾患に発展するおそれがあります。
また人によっては頭痛や喘息、胃潰瘍、下痢や便秘、ヘルペス、蕁麻疹、高血圧、アトピー性皮膚炎、めまい、耳鳴り、生理不順、円形脱毛症、高脂血症、糖尿病を発症するなど、症状の表れ方もさまざまです。
心身症を長く患うと、やがてうつや双極性障害、統合失調症、神経症などの精神障害へと発展し、社会生活が困難になり自殺を考えるなど、深刻な事態を招く可能性もあります。
また一方で、強い自己否定感が他者への攻撃心となり、モラハラ・パワハラや非行、犯罪の加害者になる場合もあります。
この場合は、他者(または社会全体)から自尊心が傷つけられ、虐げられたと感じられた時、怒りや憎しみ、恨み、妬み、嫉みなどの感情が他者に向けられ、彼らを攻撃し、傷つける行動に走りがちです。
自尊心が低いと自分を大切にできず、また他人を大切に思いやる気持ちを持ちにくくなるため、その結果、生命そのものを軽んじる考え方や行動に至ってしまうのです。
アダルトチルドレンと自尊心
自尊心は、アダルトチルドレンの問題にも大きく関わっています。
アダルトチルドレンとは、幼少期から大人のような振る舞いを求められた子どものことをいいます。
彼らは子どもらしい自由な感情表現を許されず、いわゆる「良い子」として育ってきた人々です。
アダルトチルドレンは、ありのままの自分を認められずに成長してきたため、自尊心が低いままで生きづらさを抱えやすく、大人になってからも様々なトラブルに出会いやすい傾向にあります。
その多くは、両親との関係がきっかけになっています。
親自身が自尊心を損なっているために、子どもに多くの期待をし、親の思い通りに振る舞うよう無言の圧力を与え続けてきたことから、アダルトチルドレンは子どもらしい幼少期を送ることができず、自尊心を健全に育むことができませんでした。
このように親が親らしい振る舞いをせず、子どもが子どもらしい振る舞いを許されない家族を、機能不全家族と呼びます。
機能不全家族で育った子どもは、親の期待に応え、また自分が生き延びるために子どもらしい心を抑え、親の気に入るような態度を身につけるようになります。
アダルトチルドレンの幼少期は、まさにサバイバルだったのです。
このようにして育ったアダルトチルドレンが大人になると、仕事や恋愛、結婚、人間関係などでつまずきやすく、人生が思うように展開せず思い悩むことが多くなります。
勉強ができ、能力も高いのに、なぜか大事な場面になると失敗をしてしまったり、愚かな自分を演じてしまったりと、自分でもコントロールできない事態に陥ります。
努力をすればするほどマイナスの結果が重なり、すっかり自信を失い心身症になったり、自暴自棄になったりしてしまうこともあります。
アダルトチルドレンは、自尊心を持つとはどういうことかが実感できず、またその回復方法もわからないため、道に迷い続けるような人生を選びやすくなってしまうのです。
それは、無意識のレベルで行われています。
このアダルトチルドレンは特定の人が陥る状態ではなく、現代日本の殆どの家族がなんらかの機能不全を起こしており、多かれ少なかれ同じような問題を抱えているとされています。
現代の日本社会でくり広げられている問題は、元を辿ると多くがこの機能不全家族に行き当たり、私たち一人一人の自尊感情の低さに原因を求めることができるものです。
自尊心を高めることは、じつは私たち現代人にとって大きなテーマのひとつなのです。
自尊心を高めるには?
自尊心を育み、健全な自己意識を養うには、ありのままの自分を認めることが大切です。
しかし、幼少期から健全な自尊心を育む環境を与えられず、著しく自尊感情を損なっている場合、またなんらかの症状を引き起こしている場合は、ありのままの自分を認めることがとても難しくなります。
そのため、依存的な人間関係や暴力的な支配関係、モラハラ・パワハラの被害に遭いやすく、また抜け出しにくい状況に陥りやすくもなります。
このような場合は、できるだけ早い段階で、自尊心の低下を改善する必要があることに「気づく」ことが大切です。
自分自身を客観的に見ることができれば、自分の考え方や態度をどのように変えていけばよいかを知ることにつながります。
また、自己の状態を客観的に知ることができれば、心療内科を受診する、カウンセリングや心理セラピーを受けるなど、専門的なサポートを得ることにもつながるでしょう。
別の記事で自尊心が低い人の特徴、自尊心が高い人の特徴についてチェックリストをご紹介しています。
こちらをひとつの参考に、自分の自尊心の状態を顧みてみるとよいでしょう。
→ 自尊心が低い人の特徴は?(自尊心チェック無料・1)
→ 自尊心が高い人の特徴は?(自尊心チェック無料・2)
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自尊心を高めることは、一朝一夕にはいかないもの。
しかし、私たち一人一人が自尊心の重要性に気づき、自尊心を高めるよう意識を向けることで、やがて変化を起こすことにつながることでしょう。
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